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第2話 逆


俺はボロボロになった体で、静かに語り始めた。
それを彼女は、ただ頷いて聞いてくれた。

「きっとそれを神様は許してくれます―……
……だってこんなにも大きな罰を受けたのですから」

彼女はそう言って、俺の頭を撫でた。
まるで小さな子を、あやす様に。



いつもは袖に隠れて見えない傷も、いざタイマンとなれば隠し切れない。
その傷を、俺は今でも鮮明に覚えている。

あれは、2番目に転入した学校での事。



「てめぇ、俺とやろうってか?」

ガンッ、と、相手の頭が壁に打ちつけられる音がした。
そりゃそうだ。俺が手でコイツの顔ごとを壁に打ち付けたんだから。

「いやっそんなつもりは……」

おどおどとして、冷や汗を流し、今にも泣きそうな顔になって、ダラしない男は言う。

「じゃあこれ!!何のつもりだ?」

俺は、自分の制服にかかった水を指して言う。
ぶつかってきた男に、俺の連れのチャラ男は叫んだ。

「お前!鷹鹿さんを誰だと思ってるんだ!」

襟元を掴んで、叫ぶ。
それを受ける男は、すみませんを連呼。

「土下座しろ」

俺は静かに低く言う。
男は1度「え?」と聞き返す。行動しない。

「土下座したら許してやるって言ってんだよ!このゴミが!」

俺は男を蹴って、蹴って、蹴って、殴って、殴って、殴りまくって、イラつきを解消するために暴力を振るった。

男が完全に動かなくなって、俺はそこから立ち去った。

罪悪感なんてわかなかった。
そいつが死のうと関係ない。
俺は強い。強いんだ。一番、それが絶対条件。

誰も俺に逆らえない。
目障りなやつは徹底的にツブす。

それが、俺だった。

やがてその中学を離れ、3番目に入った学校でも、また悪をやった。
もちろんそこでも俺が一番。
誰も逆らえない。絶対的関係。

どこに行っても、それは変わらなかった。
でもある日。

1人の少女に出会った。

俺が睨んでも、そいつはビクともせずに、ただ悲しそうな顔でこういった。

「あなたの闇を、私が代わってあげられたらいいのに」

わかったようなこと、いうんじゃねえ。
あんたなんかに、何がわかる。
俺の本当の心の内を、悲しみを、憎しみを、分かられてたまるか。

俺は殴った。
その少女を殴った。

「これであなたの闇が晴れますか?」

それでも少女は泣くこともせず、真っ直ぐに俺を見て言った。
なんか違うって思った。
俺のしてることは、違うんだって思った。
少女だけが、俺の事見てくれたって感じた。

それだけで、俺の闇は薄れていった。

俺は、暴力をやめた。


その1ヵ月後、少女は死んだ。
俺は独りぼっちになって、残された気持ちで、悲しくて、切なくて、それでも出ない涙に、どこまで自分は冷たい奴なんだって、絶望した。


そして、今の高校に転入してきた。
そしたら今度は自分がいじめられた。


―……まるで、逆。
あの時の俺が反転してる。
あれだけ暴力ふるって、頂点たって、散々悪い弱いものいじめして。
それのツケでもまわってきたのだろうか。

何を今更。
もう迷うことはない。


―……堂々と、奴とやりあってやる。
絶対に後悔させてやる。

俺をいじめたこと、後悔させてやる。




闘争心に燃える。
今の俺はきっと強い。
自分に言い聞かせて、奴の前に立つ。

戦いのステージ。
2人がそこに、立った。



「さて。お前がオレに、勝てるかな?」

奴が、挑発するように俺に言う。

「黙れクソガキ。つまんねえいじめはもう終わりだ」

いつもの調子が出てきたところで、俺は1度深呼吸をして、強く地面を蹴った。


―……そして。






たったの5分。
ケリはついてた。


「いったそうー。忘れてたけど、オレは、ヤクザの息子だから、相等強いよ」

奴の悠々とした憎たらしい笑みが、何もできない今の俺の瞳に写る。
握り締めようとした拳すら、痛みが走って何もできない。

俺は強い。そんなのただの妄想だった。
実際の俺は、弱いものしかいじめられない、ただの弱者。
強くなんか無かった。強くなんか、強くなんか……!


悔しくて、食いしばった歯。
唇と舌が切れて、血がにじんだ。
歯が折れてる。殴られた時に嫌な音、したからな。

頭がガンガンする。
腹がいてえ。
生暖かいべとっとした赤い血が、地面に溢れて広がる。
動けない。これっぽっちも動かない。
指先を、ぴくぴくと動かしてみる。
それだけで、全身に電気が走ったような痛みが襲う。

意識が遠のく。
足についた大きな切り傷。
奴は武器なんて使わず、腕一本で、傷をつけた。
なんて力の差。なんて無茶な真似。

かっこ悪い自分。
もうこのまま死んでしまいたい。
はやくラクになりたい。
こんな姿、父親が知ったらどうするだろう。


きっと縁、切られるだろうな。
俺の事、嫌ってるみたいだし。


「……上等」


それでもいいと、俺は思った。
だから呟いてみた。
そしたら、急に意識が跳んで、意味わかんねえくらい視界が真っ暗になった。

死ぬって一瞬頭をよぎった。



―……目を覚ますと、保健室のベッドの上だった。

傍に彼女がいて、俺が目を覚ますと、彼女は少しだけ微笑んだ。

「なんだ、俺、まだ生きてんのか―……」

俺が呟くと、彼女は怒るわけでもなく、心配するわけでもなく、やはり冷静に、こう言った。

「寝心地はいかがでしたか?」

「最高だったよ、少しだけ花畑がみえた」

俺がそうやって、余裕を見せると、彼女は微笑んで、「嘘つき」とだけ言った。

「あちこち骨が折れてます。それからここは、病院です」

俺はそれには驚いて、「え?」とマヌケな返事をしてしまった。
確かに、結構な重症だとは思った。
でも、まさか病院沙汰にまでなるとは思ってなかった。

だって、俺、こんなとこ今までケンカして来たことないし。

「俺もついに患者か……ダッセェ」

天井を見上げて思う。
意識を失う前に見た青空は、今、一体どうなってるのだろう。

「今日は生憎雨です」

そんな俺を察してか、彼女はそういった。

「今日は雨?もしかして俺、相当寝込んでた?」

「はい。もう1週間ですよ」

1週間……そんなに俺、マジで弱かったんだ。

「まあそりゃあ、相手がヤクザともなれば、体ボロボロにもなりますよ」

「あいつは?!」

ヤクザと聞いて、俺は思い出す。
奴は今、どこで何をしている?

「退学です。ヤクザとばれて」

俺は少し、いい気味だと思った。
そんな自分が嫌になった。
タイマンを申し出たのは俺で、負けたのも俺。
力不足だったのも俺なわけで、今回の件で悪いのは俺だ。
人のせいにしようとした自分が、情けなかった。

「俺ももう学校いけねえや。派手にやっちまったしな」

「……そうですね」

「あんたももう、ここにはくんなよ。関係ねえんだから」

彼女は、答えなかった。
変わりにこう言った。

「私は人の話を聞くことが好きです」

俺は、ただそれだけで、壁が消えた気がして、少しずつ、自分の事を話し始めた。



そして。
自分の過去を話し終えた後、彼女は言った。



「きっとそれを神様は許してくれます。だってこんなにも大きな罰を受けたのですから」

「罰―……」

「もう平気ですよ、大丈夫」

彼女はそう言って、俺の頭を撫でた。
まるで小さな子を、あやす様に。

「……ごめん、ありがとう」


俺は初めて、他人に誤って、お礼を言った。



何故だか、急に目の奥が熱くなって、視界がぼやけた。

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