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プロローグ 彼女の言葉

今生きていることは
きっと
必然的なことなんだと思う

だから
きっと死ぬときは
それも必然なんだと思う


だから私が今
この状況に置かれていることも
必然的なことであるんです



―……彼女はそういった。

*

「ひっかかったー!!」

少年少女たちが、笑っていた。
恐ろしいほどの笑い声が降り注ぐ。

小さくなった気がした。
見た目じゃない。
心。中身。度胸と勇気。

言い返したくて握った掌。
食い込む爪。
痛みはない。
……いや、ある。

でもこれは何の痛み?

「見事なまでの引っかかりようですね」

恐る恐る顔を上げてみれば、彼女は、微笑んでいた。

「俺を見て、いい気味だとか、思う?」

彼女は首を振って、否定した。
何がおもしろくて、こんなことを続けるのだろう。

「今日のはまた一段と手の込んだ仕込みですね。彼らもよく飽きないで続けられますね。」

人事のような態度。
別に助けるわけでもなく、心配するわけでもなく。
彼女の意図が、読めない。

「じゃあ逆に聞くけど、なんであんたは毎日俺と話すんだ?」

聞くと、彼女はすんなりと答えた。

「必然だからです」

―……と。




俺は毎日のように、つまらないいじめの相手をしてやっている。
―……と思うのは簡単だけど、言葉に出して言うのは難しい。
ましてや態度なんてものは、もっと変えるのは難しい。

最初は可愛いもんだった。

転入してきた俺に、いきなり宣戦布告をするかのごとく、1人の男子生徒がやってきて、

「お前、目障り」

とだけ告げたかと思うと、次の日からワケの分からんいじめが始まっていた。

机の中に手紙、パソコンで打った字で、「さっさと消えろ」と書いてあった。
本気にするわけもなく、きっと昨日の奴の仕業だと考え、ゴミ箱に捨てた。

すると次の日、今度は黒板に、大きな字で「転入生、消えろ」と書いてあった。
消すのも面倒で、放って置いた。

そしたらいつのまにか消してあって、代わりに机に消えろと書いてあった。


最初はこんなただの嫌がらせだった。
それが、放っておくだけで、こんなにも悪化させるものなのか。


数週間が経つと、いじめは文字だけにとどまらなかった。

体育の時間、体育倉庫に閉じ込められ、窓から脱出できたかと思うと
降りた場所には画鋲がばら撒いてあった。

教科書を開くと、クラスの生徒の財布が出てきて、犯人だと疑われた。
もちろん今もその疑いは晴れていない。

鞄がどこかへ消えて、「次はお前が消えるんだ」と、通りすがったときに誰かにささやかれた。

そしてその日の帰り道、ナイフを持った男に命を奪われそうになった。
必死の抵抗で、ナイフは左頬を掠っただけだったが、
俺はもうその時点で、度胸も勇気も消えうせていっていた。


まさか自分の命を奪って消そうとするなんて、
いったい俺が何をしたっていうんだ。

ただこの学校に転入してきただけ。
それだけで、死にそうになるなんて。

おかしい。
狂ってる。

心の中で、ワケの分からないこの毎日に、さっさと卒業したいと叫んだ。


それからすぐに、彼女は俺の傍に頻繁にくるようになった。
今まで理由を問うことはなかった。
―……奴の差し金だと思っていたからなのかもしれない。


だから、彼女と話すようになって一ヶ月、本当のところはよくわかっていなかった。
何がわかってないかって、それは、彼女の意図とか、次にあるのは地獄か天国かとか。

ある種もうこれは、言いようの無い恐怖に怯えるいじめられっこ。
いつのまにこんなカッコ悪くなったんだ、俺は。
そう思うようになったのも、また彼女に出会ってから。

今まで転入してきて、授業以外で口を開くことはまずなかった。
それが今では、彼女と喋っている。
ぎこちないけど、それでいい。
壁を壊したら、何があるかわかったもんじゃない。

きっと俺は、臆病虫に取り付かれたんだろう。
幸い泣き虫には取り付かれなかったけど。




「必然?」

「はい。そうです。これは必然なんです」

彼女はそう、言い切った。

俺と今、喋っているこの状況が、必然だと。
彼女はそういうのだから、俺はなんだか不思議な気持ちになった。

「じゃあ、俺と一緒にいることで、あんたがいじめられても、それは必然だっていうのか?」

「はい。」

彼女は一切、微笑を崩さずに、はっきりと肯定した。
そしてもう一言、こういった。

「でも私は絶対にいじめられません。神様は私の今までの行いを見てきてくれているのです。私は今まで悪い事は1つもしていません。ですから、いじめられるはずがないのです」

「神様ねぇ……本当に存在すんのかよそんなもん」

俺は半ば、バカにしたように言った。
すると彼女は、怒ることもせず、ただただ笑みを崩さずに、うなずいた。

「います。少なくとも、私にとっては神様はいるんです」

俺はこのとき思った。

彼女は、神様に繋げすぎだと。



後から知った。
彼女はキリスト教の信者でもなければ、仏教の信者でもない。
なんの信者でもない人だという事を。

それなのに、どうしてここまで神様を信じているのか。
それを知ったのは、まだ先の話。

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