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第4話 罪
「私は、とてもとても大きな罪を……犯して、しまったのです」
「大きな、罪?」
俺が聞くと、彼女は静かに頷いて、そして消え入るような声で言った。
「―……大切な人を……、思い出せないのです」
益々彼女の表情は、暗く暗く闇に落ちていった。
「私は、とてもとても大きな罪を……犯して、しまったのです」
「大きな、罪?」
俺が聞くと、彼女は静かに頷いて、そして消え入るような声で言った。
「―……大切な人を……、思い出せないのです」
益々彼女の表情は、暗く暗く闇に落ちていった。
*
俺が空乃と出会う、3年前。
まだ空乃は中学2年生で、普通の女の子だった。
今みたいに、神様に執着する事もなく、ただ友達やクラスメイトと毎日を楽しく過ごしていた。
「そーーらちゃんっ」
少しクセ毛の黒い髪を揺らして、背の低い少女は、空乃に勢いよくぶつかった。
「わぁっ……詩織ちゃ……突然ビックリしたあ!」
その少女の名前は詩織(しおり)と言って、空乃にとって、一番大切な、親友であった。
それは勿論、詩織にとってもそうであり、2人はいつも仲良く一緒にいた。
ある日、一緒に出かけていた2人は、運の悪い事に、出かけ先で雨が降り、傘も無いので歩いて帰れなくなってしまった。
「あんなに晴れてたのにね……少し雨宿りする?」
詩織はそんな風に、空を眺めながら、店内のエントランスホームで空乃に言った。
「んー……そうしたいんだけど、私、今日用事があるの」
「ああ、そっか。今日、お母さんと会うんだもんね」
詩織はそういって、空乃と一緒にバス亭へ向かって歩き出した。
空乃の家は、父子家庭で、母親は他の家族と住んでいる。
今日は、1年に1度、母親とその家族に会う日であり、時間までに帰らなければならなかった。
じとっとした外の空気で、服が肌にまとわりついて気持ち悪い。
早くバスが来ないかと、2人が待っているときだった。
「あ、バス来たよ空ちゃん!」
「ほんとだ、やっときた!」
これで家に帰れる。時間に間に合う。母親に会える!
そう空乃が思ったときだった。
「きゃぁぁぁぁぁあああ!!!」
どこからか悲鳴が聞こえ、何かがぶつかる様な衝撃に加え、爆音のような音が耳を痛くした。
一瞬、何が起こったのか全くわからなくなり、頭が真っ白になった。
それは一瞬の出来事で、気がつくと、目の前に車のタイヤが見えた。
何だか、体が重たかった。
「し……おり…ちゃ……ん………?」
声もかすれる。
詩織がどうなったか心配になって、目で探す。
が、見えるのは機械の塊だけ。
壊れ崩れバラバラになった車の破片があちらこちらに飛んでいて、自分は車の下敷きになっている。
「っぅ……」
体を動かそうとして、異変に気づく。
痛い。体がいたい。指は動くけど、腕は動かない。
足が重い。ヒリヒリする。ジンジンする。
お腹が、苦しい。顔が熱い。
ああ、声が聞こえる。
でもなんて言っているのかわからない。
私はどうなったの?
詩織はどうなったの?
一体、何が起こったの?
―……死にたくない。生きたいよ。
最期に思ったのは、そんな思いだった。
*
「それで、その…詩織とかっていう子、どうなったんだ?」
病室に、心地よい風が吹き込んだ。
空乃の髪が、流れる。
「……思い出せないんです」
「え?」
俺は思わず聞き返した。
少し身を乗り出して、俺は言う。
「思い出せないって……詩織って子のその後が?」
「……はい」
空乃は唇を噛み締めて俯き、しかし口調だけはハッキリとして肯定した。
これが、空乃のいう―罪。
空乃の心の穴。
「思い出せないけれど、私は今、こうして元気に生きています」
俯いたまま、空乃は続ける。
「きっと神様は、私を救ってくださった。私は神様に好かれてる。」
まるで空乃は、自分自身に言い聞かせるような強い口調で、握り締めた手を胸に当てて言った。
「だからぜったいに詩織は助かっているはずです。私の大切な親友ですから」
顔を上げた空乃の顔は、驚くほど―真っ直ぐに俺の目を捕らえていた。
「―そっか」
「はい」
「暗く、なってきたな」
「そうですね。じゃあそろそろ失礼します」
彼女は病室を出て行こうと席を立った。
彼女の後姿が一瞬だけ止まる。
「今日はありがとうございました。」
彼女は一瞬振り返り、笑顔を見せ、すぐにまた足を進め、病室を出て行った。
「ありがとう、か……」
感謝の言葉なんて久しぶりに聞いた気がする。
何より、最後に顔を上げて力強く放った空乃の言葉が、頭から焼きついて消えなかった。
俺が空乃と出会う、3年前。
まだ空乃は中学2年生で、普通の女の子だった。
今みたいに、神様に執着する事もなく、ただ友達やクラスメイトと毎日を楽しく過ごしていた。
「そーーらちゃんっ」
少しクセ毛の黒い髪を揺らして、背の低い少女は、空乃に勢いよくぶつかった。
「わぁっ……詩織ちゃ……突然ビックリしたあ!」
その少女の名前は詩織(しおり)と言って、空乃にとって、一番大切な、親友であった。
それは勿論、詩織にとってもそうであり、2人はいつも仲良く一緒にいた。
ある日、一緒に出かけていた2人は、運の悪い事に、出かけ先で雨が降り、傘も無いので歩いて帰れなくなってしまった。
「あんなに晴れてたのにね……少し雨宿りする?」
詩織はそんな風に、空を眺めながら、店内のエントランスホームで空乃に言った。
「んー……そうしたいんだけど、私、今日用事があるの」
「ああ、そっか。今日、お母さんと会うんだもんね」
詩織はそういって、空乃と一緒にバス亭へ向かって歩き出した。
空乃の家は、父子家庭で、母親は他の家族と住んでいる。
今日は、1年に1度、母親とその家族に会う日であり、時間までに帰らなければならなかった。
じとっとした外の空気で、服が肌にまとわりついて気持ち悪い。
早くバスが来ないかと、2人が待っているときだった。
「あ、バス来たよ空ちゃん!」
「ほんとだ、やっときた!」
これで家に帰れる。時間に間に合う。母親に会える!
そう空乃が思ったときだった。
「きゃぁぁぁぁぁあああ!!!」
どこからか悲鳴が聞こえ、何かがぶつかる様な衝撃に加え、爆音のような音が耳を痛くした。
一瞬、何が起こったのか全くわからなくなり、頭が真っ白になった。
それは一瞬の出来事で、気がつくと、目の前に車のタイヤが見えた。
何だか、体が重たかった。
「し……おり…ちゃ……ん………?」
声もかすれる。
詩織がどうなったか心配になって、目で探す。
が、見えるのは機械の塊だけ。
壊れ崩れバラバラになった車の破片があちらこちらに飛んでいて、自分は車の下敷きになっている。
「っぅ……」
体を動かそうとして、異変に気づく。
痛い。体がいたい。指は動くけど、腕は動かない。
足が重い。ヒリヒリする。ジンジンする。
お腹が、苦しい。顔が熱い。
ああ、声が聞こえる。
でもなんて言っているのかわからない。
私はどうなったの?
詩織はどうなったの?
一体、何が起こったの?
―……死にたくない。生きたいよ。
最期に思ったのは、そんな思いだった。
*
「それで、その…詩織とかっていう子、どうなったんだ?」
病室に、心地よい風が吹き込んだ。
空乃の髪が、流れる。
「……思い出せないんです」
「え?」
俺は思わず聞き返した。
少し身を乗り出して、俺は言う。
「思い出せないって……詩織って子のその後が?」
「……はい」
空乃は唇を噛み締めて俯き、しかし口調だけはハッキリとして肯定した。
これが、空乃のいう―罪。
空乃の心の穴。
「思い出せないけれど、私は今、こうして元気に生きています」
俯いたまま、空乃は続ける。
「きっと神様は、私を救ってくださった。私は神様に好かれてる。」
まるで空乃は、自分自身に言い聞かせるような強い口調で、握り締めた手を胸に当てて言った。
「だからぜったいに詩織は助かっているはずです。私の大切な親友ですから」
顔を上げた空乃の顔は、驚くほど―真っ直ぐに俺の目を捕らえていた。
「―そっか」
「はい」
「暗く、なってきたな」
「そうですね。じゃあそろそろ失礼します」
彼女は病室を出て行こうと席を立った。
彼女の後姿が一瞬だけ止まる。
「今日はありがとうございました。」
彼女は一瞬振り返り、笑顔を見せ、すぐにまた足を進め、病室を出て行った。
「ありがとう、か……」
感謝の言葉なんて久しぶりに聞いた気がする。
何より、最後に顔を上げて力強く放った空乃の言葉が、頭から焼きついて消えなかった。
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